両肩の痛みが治らない…70代男性を苦しめた本当の原因「リウマチ性多発筋痛症」とは?
- 竜祐 久保田
- 10月2日
- 読了時間: 6分
更新日:10月16日

こんな「治らない肩の痛み」でお悩みではありませんか?
今回ご紹介するのは、両肩の痛みを抱えていた一人の患者様の物語です。この記事が、あなたの長引く痛みの原因を見つめ直す、きっかけになれば幸いです。
【症例提示】マンホールを持ち上げた後の両肩の痛み。78歳男性のケース
発症のきっかけと初期の評価
普段からお身体のコンディショニングで来院されていた70代の男性。6月中旬のある日、「数日前にマンホールを何度も持ち上げる作業をしてから、両方の肩の後ろが痛むようになった」と訴えられました。
お話を聞く限り、特定の動作がきっかけで痛みが出現していることから、私たちは当初、作業による負荷が原因の一般的な「筋・筋膜性」の問題、つまり筋肉痛や肉離れに近い状態だと考え、施術を開始しました。
経過に潜む「違和感」というサイン
しかし、数週間が経過しても、症状は思うように改善しませんでした。施術直後は少し楽になるものの、すぐに痛みが戻ってしまうのです。
それどころか、7月に入る頃には両肩の痛みはさらに増悪し、新たに両方の太ももにも痛みが出現。ついには「特に朝方がひどく、床から立ち上がるのに支えが必要なほどだ」という状態にまで進行してしまいました。
これは、単なる使いすぎによる筋肉痛の経過とは明らかに異なります。私たちは、この「違和感」の正体を探るため、改めて評価を根本から見直すことにしました。
私たちの臨床推論 ― なぜ「いつもと違う」と考えたのか
多くの患者様を見てきた経験から、このような非典型的な経過をたどる場合、痛みの原因が筋肉の硬さといった局所的な問題ではない可能性を常に考えます。
身体の評価を進めると、いくつかの矛盾点が見えてきました。
通常、使い過ぎによる筋肉の痛みは1~2週間の施術にてほぼ消失します。しかしこの方は、2週間後に症状の増悪を訴えていました。
また、筋肉を傷めている場合は「圧痛」といって、痛い場所を押すと強い痛みを感じるものです。しかし、この患者様の場合、押してもほとんど痛みがないにも関わらず、腕を上げたり、ストレッチをしたりと筋肉を動かした時にだけ強い痛みを訴えられたのです。
さらに、症状が「両肩」そして「両太もも」と、左右対称に広がっている点も重要な所見でした。解剖学的に見ても、一つの動作でこれだけ広範囲の筋肉が同時に傷むことは考えにくい。この時点で、私たちは全身性の疾患、特に膠原病などを疑い、慎重に鑑別を進める必要性を感じました。
診断までの道のりと、見逃されやすい「リウマチ性多発筋痛症」の正体
医療機関での検査と、深まる患者様の不安
私たちは、この症状が我々の施術だけで対応すべきではないと判断し、まずはかかりつけ医、そして整形外科への受診を強く勧めました。
しかし、整形外科では大腿部の症状から「脊柱管狭窄症の疑い」、内科の血液検査では「CRP(炎症反応)の数値が少し高いが、リウマトイド因子は陰性のため異常なし」という結果でした。
複数の医療機関で明確な原因が示されなかったことで、患者様は「自分が神経質で痛がりなだけかもしれない」と、深い不安を吐露されました。痛いのは紛れもない事実なのに、誰にも理解してもらえない。これほど辛いことはありません。
確定診断:痛みの黒幕は「PMR」だった
しかし、私たちはこの時点で「両肩と両太ももの痛みから始まる」という症状や発症年齢などから【ある疾患】の特徴と類似していることに気づいており、その疾患を鑑別するために必要な血液検査項目が足りていないことや脊柱管狭窄症とな明らかに症状が異なることから、再度血液検査の必要性を確信していました。そこで、膠原病を専門とするリウマチ科への受診を再度強く推奨し、これまでの経過をお手紙にして受診していただきました。
そしてついに、専門医による詳細な検査の結果、特徴的な症状と著しく高い炎症反応の数値から、「リウマチ性多発筋痛症(PMR)」(膠原病の一種)という確定診断が下されました。長らく続いた痛みの正体が判明した瞬間でした。 今回の患者さんは男性でしたが、この病気は女性の方が多く、50歳以降から発症し70代、80代に最も多く発症します。また、この患者さんの症状にはありませんでしたが、朝方の手指のこわばりも特徴的な症状になります。この病気は、レントゲンには異常が写らず、手指のこわばりがありますが関節リウマチの指標となるリウマトイド因子も陰性となることが多いため、「歳のせい」「五十肩」などと混同され、見逃されてしまうことがあるのです。
「五十肩」と「PMR」― 似ているようで全く違う痛みの特徴
特にPMRによる肩の痛みは、「五十肩(肩関節周囲炎)」と非常に間違われやすい症状です。しかし、その本質は全く異なります。
特徴 | リウマチ性多発筋痛症(PMR) | 五十肩(肩関節周囲炎) |
原因 | 全身性の炎症 | 肩関節周辺の組織の変性 |
範囲 | 両肩に対称的に起こることが多い | 通常は片方の肩 |
他の症状 | 首、お尻、太ももなどにも痛みが出る | 基本的に症状は肩周辺のみ |
こわばり | 朝のこわばりが45分以上続く | 朝のこわばりは軽度なことが多い |
血液検査 | 炎症反応(CRP, ESR)が著しく上昇 | 原則として正常 |
もしあなたが50歳以上で、両肩の痛みと共に45分以上続く「朝のこわばり」を感じているなら、それはPMRのサインかもしれません。
まとめ:診断がつかず不安を抱えるあなたへ
今回の症例は、患者様の訴えと身体のサインに真摯に耳を傾け、矛盾点を見逃さず、多角的な視点を持つことの重要性を改めて教えてくれました。
私たちは柔道整復師として、筋肉や関節の専門家であると同時に、重篤な疾患の可能性を見極める「最初の窓口」としての役割も担っています。診断がつかず不安を抱える方に寄り添い、共に原因を考え、適切な専門医へと繋ぐ。それも私たちの重要な使命です。
もしあなたが、
何をしても改善しない肩や太ももの痛み
病院で「異常なし」と言われたものの、拭えない身体の不調
これらに悩んでいるのであれば、決して一人で抱え込まないでください。当院では、あなたの物語を丁寧に伺い、身体の状態を多角的な視点から評価し、最適な道筋を一緒に考えます。
長年の痛みから解放され、仕事や趣味に集中できる毎日を取り戻したいと本気で願うなら、一度、私たちにご相談ください。
【関連ページ】
(この投稿は、以下の科学的知見を参考にしています。)
Dasgupta, B., et al. (2012). "2012 Provisional classification criteria for polymyalgia rheumatica: a European League Against Rheumatism/American College of Rheumatology collaborative initiative". Annals of the Rheumatic Diseases.
要約: PMRの診断の客観性を高めるために、欧州と米国のリウマチ学会が共同で策定した分類基準です。臨床症状や炎症反応などを点数化し、診断の一助とします。
Mori, S., et al. (2024). "Characteristics of patients with polymyalgia rheumatica in Japan using a nationwide database". Modern Rheumatology.
要約: 日本の大規模な診療データを基に、国内のPMR患者の特徴や発生率、治療傾向などを分析した研究です。日本の実臨床におけるPMRの実態を明らかにしています。
Dejaco, C., et al. (2015). "2015 Recommendations for the management of polymyalgia rheumatica: a European League Against Rheumatism/American College of Rheumatology collaborative initiative". Annals of the Rheumatic Diseases.
要約: PMRの管理(治療)に関する国際的な推奨事項をまとめたものです。主にステロイド治療の適切な使用方法や減量スケジュールについて詳述されています。




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